百人一首
【原 文】住の江の岸に寄る波よるさへや 夢の通ひ路人目よくらむ
【上の句】住の江の岸に寄る波よるさへや(すみのえのきしによるなみよるさへや)
【下の句】夢の通ひ路人目よくらむ(ゆめのかよひちひとめよくらむ)
【決まり字】1字決まり「す」
超現代語訳
せめて夢で会いたい!海岸に打ち寄せる波のように、アナタに寄り添いたい。
夢の中でさえも、人目が気になるの??ワタシって、そんなにイケてないかしら?
歌のポイント
- 切ない恋の歌だけど、リズミカルに覚えられる歌
- 雅な皇室の歌会で、披露したイメージで詠まれた妄想の歌
- 人目を避けているのは、自分なのか相手なのか気になる歌
歌の情景
この歌は、第59代宇多(うだ)天皇の后が開いた歌合わせで詠まれたフィクションの歌です。
相手への想いを寄せる気持ちを、海岸に打ち寄せる波でイメージし、リズミカルな歌となっています。せめて夢で会いたいのに、どうして会えないのだろうと切ない恋心を見事に表現しています。
ただ、人目を避けているのは、自分に興味を持ってくれない相手なのか、恋に自信を持てない自分なのかが気になるところです。
語意
【すみの江の】大阪にある住吉海岸
【よる波】寄せる波 「寄る」は同じ音の「夜」の序詞
【よるさへや】夜でさえも 「や」は疑問の助詞で「らむ」と係り結び
【夢の通ひ路】夢の中で恋人に会うために通る道
【よくらむ】避けるのだろう
歌の分類
【歌集】古今和歌集
【歌仙】三十六歌仙
【テーマ】恋の歌
【50音】す音
歌を詠んだ人物
【作者】藤原敏行朝臣(ふじわらのとしゆきあそん)
【性別】男性歌人
【職業】官人(現代職業:官僚)
【生年】不明
【享年】901年(昌泰4年)または907年(延喜7年)
藤原敏行は、平安時代前期の貴族で生まれた年はわかっていませんが、父は藤原富士麻呂(ふじわらのふじまろ)で、母は紀名虎(き のなとら)の娘です。
官僚として、天皇の側近として働いたり、地方へ行ったりしていましたが、病気を理由に仕事を辞めています。若くして亡くなりましたが、歌人としても書家としても有名な人物です。
また多くの人々から写経を依頼されましたが、心ここにあらずで女性とイチャついたり魚を食べたりと心ここにあらずの状態で写経したことで、地獄に落ちたという伝説があります。三十六歌仙の一人でもあり、古今集の「秋来ぬと 目にはさやかに 見えねども 風の音にぞ おどろかれぬる」は、メジャーな歌です。